若狭から京都へ続く「鯖街道(さばかいどう)」。その終着点である下鴨の地で、安政三年より暖簾を掲げる下鴨茶寮が、技と心を込めて「鯖寿司」を仕立てました。
古都・京都と鯖寿司の関わりを紐解きながら、監修に当たった下鴨茶寮 総料理長・本山直隆(もとやま・なおたか)に話を訊きます。
鯖街道の終着点、京都下鴨の地で
若狭の海から京の都へ。
険しい峠を越え、運ばれた鯖。福井県若狭から京都を繋ぐその道は、今も「鯖街道」の名で親しまれています。かつて、一晩かけて山道を辿った旅人や担ぎ手たちが、ようやく安堵の息をついた旅の終着点。それが、鴨川のほとり、ここ下鴨の地でした。現在も、往時の記憶を留める「鯖街道口」の碑が立っています。下鴨茶寮は安政三年より、この地に暖簾を掲げ、京都の食文化とともに歩んでまいりました。
京都の食文化を伝える鯖寿司
鯖街道を通って運ばれる鯖は、保存のため塩漬けにされました。二、三日かけて京都に着く頃には、ほどよく塩が馴染んで美味になったといわれています。この塩鯖を使った「鯖寿司」が京都の町で人気を博したのは、江戸時代のこと。
ひと口に鯖寿司といっても、「焼き鯖寿司」や押し寿司「バッテラ」、一尾丸ごと使う「姿寿司」など多様ですが、京都で代表格とされるのは、頭と尾を落とした半身を昆布で巻いた「棒寿司」です。
京都の食文化を象徴する鯖寿司を、このゆかり深い地で供することは、伝統を受け継ぐ務めであり、何よりの喜びでもあります。
伝統を尊び、今を醸す
下鴨茶寮が創業したおよそ170年前、この地には、鯖街道を往来する旅人や担ぎ手たちの活気があふれていたことでしょう。時代と共に街並みは変わりましたが、変わらないものがあります。

本山総料理長はこう語ります。
「鯖寿司というものは、すでに一つの完成形に達している料理です。ですから、奇をてらうことなく、純粋に最後の一貫まで美味しく食べ進められる設計にあると考えています。」
その言葉には、静かな確信が宿っています。
断面に託す料亭の技、鯖の濃厚
「まずは、断面をご覧ください」。
脂ののった鯖の“厚み”、酢飯の量、本山総料理長のこだわりが光ります。
「ただ厚みの鯖をのせるのではなく、酢飯とのバランスを考えています。鯖の濃厚な旨みを引き締める酸味、引き立てる塩味。そして白しば漬けと酢飯のまろやかな酸味とさりげない甘味。料亭ならではの“塩梅”を重ね、まとめました」。
口に運ぶと、鯖の旨みと酢飯のほどける絶妙な食べ応え。さらに、鯖と酢飯の間にそっと忍ばせた「白しば漬け」が、さらりとした酸味で鯖の脂を一度清め、次の一口へと誘います。
下鴨茶寮がたどり着いた答えは、今の京都らしい感性に寄り添う、新しくも懐かしい味わい。ゆかりある土地にふさわしいひと竿が完成しました。
京都の「ハレ」を分かち合う文化にふさわしく
京都の人々にとって、鯖寿司は単なる食事以上の意味を持ってきました。
とりわけ葵祭や祇園祭といった祭礼の折には、各家庭で鯖寿司を用意し、近隣や親戚と贈り合い、ともに味わう習慣がありました。京都人にとっての鯖寿司は、ハレの日の喜びを分かち合う、人と人を結ぶ大切な社交のかたちでもあります。
当茶寮の「鯖寿司」も贈る文化を受け継ぎ、竹皮に包み、端正な木箱に収めてお届けいたします。
お祝い事や季節のご挨拶、あるいはご家族が集う大切な時間に。
箱を開けるその瞬間からお愉しみいただける、料亭の心づくしをお届けします。
【総料理長・本山直隆よりご挨拶】

鯖寿司は、古くから愛されてきた完成されたお料理です。 下鴨神社のほど近く、鯖街道口にて安政三年より続く暖簾を守る料理人として。伝統を大切にしながらも、今を生きるお客様が、最後の一貫まで「美味しい」と心から喜んでいただけるように、と想いを込めました。
鯖はしっとり、酢飯は塩梅よくほどけ、白しば漬けがさらりと清めて、次の一口を誘う。そのようにお仕立てしております。この地が育んできた土地の記憶と、私どもの手仕事を、ひと竿の中に込めてお届けいたします。古くて新しい京都の味わいをお愉しみください。
〈下鴨茶寮 総料理長 本山直隆〉
鯖寿司
プロフィール
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本山 直隆下鴨茶寮 総料理長 1981年佐賀県生まれ。料理人である父の背中を見て育ち、自身も料理の道へ。東京で日本料理の修業を重ね、2016年3月、「銀座 下鴨茶寮 東のはなれ」料理長、2017年6月「下鴨茶寮」総料理長に就任。 |
参考
農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/sabazushi_kyoto.html
国土交通省
https://www.mlit.go.jp/tagengo-db/common/001653316.pdf
文化庁
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/joseishien/syokubunka_story/pdf/93910608_01.pdf
書籍
「おばんざい 春と夏-京都台所歳時記」秋山十三子・大村しげ・平山千鶴共著(河出文庫)





